はじめに — 「帰国治療」が増えている背景
アメリカなど海外で暮らす日本人の間で、夏休みや出産休暇に合わせて日本へ一時帰国し、不妊治療を受けるケースが増えています。
背景には2022年4月に始まった体外受精を含む不妊治療の保険適用拡大があり、費用負担の軽減に加えて母国語での説明や家族のサポートが得られる安心感が帰国治療を後押ししています。このガイドでは典型的なケース、日本とアメリカの違い、帰国前に整えるべき準備を整理します。
1. どんな人が一時帰国で治療しているのか
帰国治療を選ぶ人には共通する条件があります。凍結胚の保管場所や家族の予定など、日本で進めることでメリットが明確なケースです。
- 日本で治療歴があり、胚が国内で凍結保存されているため移送費を抑えやすい
- 夏季休暇や育休を利用し、第2子・第3子を目指して診察スケジュールを一度に組みやすい
- 配偶者の一時帰国に合わせて採卵・移植を調整し、夫婦同時に治療を進めたい
2. 日本を選ぶ3つの理由
費用だけでなく、コミュニケーションやサポート体制も帰国治療の大きな後押しになります。
- 保険適用で費用の見通しが立つ——診療が定額制で予想外の請求が少ない
- 母国語で細やかな説明を受けられる——治療内容や副作用を100%理解しやすい
- 家族・友人の支援を得やすい——精神的負担を減らし安心して治療に臨める
3. それでもアメリカ治療を続ける理由
生活基盤のある現地で治療を続けるメリットも明確です。両国の強みを把握して、どの工程をどこで行うか検討しましょう。
- 診断から治療開始までのリードタイムが短く、最短で約1週間で採卵に進める
- PGT-AやICSIなどの先進的オプションを組み込みやすく、成功率向上を狙える
- ドナー活用や代理出産への理解が進んでおり、単身者やLGBTQ+カップルなど多様な家族形態に選択肢が広い
4. 一時帰国前に済ませておきたい準備リスト
帰国前の準備を徹底するほど、限られた滞在期間でもスムーズに治療を進められます。
胚移送、事前検査、情報共有の3つの視点で逆算し、必要な手続きを整えましょう。
4-1. 胚移送が関わる場合
凍結胚を日本へ移送する際は、輸送可否や費用を早めに確認し、手配の抜け漏れを防ぎます。
- 両国のクリニックへ同時に問い合わせ、輸送可否・必要書類・費用を確認する
- 凍結更新料の未払いがないか精算し、輸送手続きの停止を防ぐ
- 液体窒素タンク(LN₂デュワー)は最低3〜4週間前までに手配を確定する
4-2. 検査は「帰国前」に前倒し
日本到着後の診察を円滑にするため、主要な検査は現地で前倒しに実施し結果を共有しておきます。
| 検査項目 | 実施時期 | ポイント |
|---|---|---|
| ホルモン採血(AMH・FSH) | 帰国2〜3か月前 | 婦人科経由で保険適用されやすい |
| 感染症パネル(HIV・HBV・HCV) | 帰国1か月前 | 日本の移植前検査項目と同等か確認 |
| 甲状腺・ビタミンD | 帰国1か月前 | 不足が判明したら早めに補充を開始 |
アメリカでは患者に15日以内に検査結果を受け取る権利(HIPAA)があり、ポータル閲覧が難しい場合もRelease FormでPDFを受領できます。
4-3. 情報共有の流れ
日本と海外のクリニックが同じ情報を共有できるよう、治療計画と検査結果を段階的に整理しましょう。
- 日本のクリニックで治療計画を立案し、帰国日程と胚保管状況を確認する
- アメリカ側で必要な検査を依頼し、不妊専門外来が難しい場合は一般婦人科でも手配する
- 検査結果と培養記録を日英双方でコピーし、日本の医師へ事前共有する
5. まとめ — 「どこで治療するか」より「どう準備するか」
日本の保険診療は費用と説明の安心感が魅力、アメリカの治療はスピードと柔軟性が強みです。自分たちのライフプラン・タイミング・費用を照らし合わせ、検査と情報共有を事前に整えることが成功の鍵です。
理解してから、未来を選ぶ。