はじめに
「年齢的に遅いのでは」「AMHが低いから意味がないのでは」――卵子凍結を検討する際に多くの方が抱く不安です。結論として、卵巣機能が低下していても卵子凍結には確かな意味があります。むしろ“今の自分の状態を知り、できる範囲で始めること”が、未来の選択肢を広げる現実的な方法です。本稿では、AMH(抗ミュラー管ホルモン)を軸に、年齢・周期・スケジュールの全体像を整理します。
AMHが教えてくれること(卵巣予備能の目安)
AMHは卵巣内の卵子“ストック”の目安です。数(量)の指標であり、質そのものは示しませんが、採卵計画を立てるうえで最重要の基礎データです。
AMH(ng/mL) | 状態の目安 | 特徴 |
---|---|---|
3.0〜4.0 | 卵巣予備能が高い | 1回で10〜15個以上採れる可能性 |
1.0〜2.0 | やや低下傾向 | 採卵数はやや少なめ |
1.0未満 | ストックが少ない | 複数サイクル前提で計画 |
個人差が大きく、年齢だけでは判断できません。若年でも低値の方、高年でも高値の方がいます。
年齢と卵子の「質」:正常胚の割合の目安
年齢が上がるにつれ、卵子の染色体異常率が上昇します。同じ数を凍結しても結果が異なるのはこのためです。
年齢層 | 正常胚割合(目安) |
---|---|
30〜34歳 | 約50〜60% |
35〜39歳 | 約30〜40% |
40〜42歳 | 約20〜30% |
卵巣のリズムを理解する(卵胞期と黄体期)
- 【卵胞期】生理1日目〜排卵(約14日):複数の卵胞が成長。生理2〜3日目から刺激注射を開始し、複数卵を同時に育てます。
- 【黄体期】排卵後〜次の生理(約14日):子宮内膜が整う時期。卵子の発育には適さないため、通常は刺激を行いません。
通院・治療の全体スケジュール(1サイクルの目安)
ステップ | 内容 | 期間の目安 |
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初回診察・検査 | ホルモン測定、超音波で卵胞数確認 | 約1〜2週間 |
刺激期間 | 10〜14日間の自己注射+数回の通院 | 約2週間 |
採卵手術 | 30〜60分、麻酔後に休息 | 当日〜翌日 |
全体期間 | 1サイクルの完結目安 | 約1ヶ月前後(個人差あり) |
通院は1回20〜30分程度。朝の時間帯を選ぶ方が多く、結果は当日〜翌日に共有されます。
40歳以上の方が意識したいポイント
- 染色体異常率の上昇により、妊娠までに必要な卵子数が増える傾向。
- 1回で十分な数が確保できない場合、2〜3サイクル前提で計画。
- “数”を確保することが“質の卵子に出会うチャンス”を広げます。
まとめ
卵巣機能が低下していても、卵子凍結は“今できる最も現実的な備え”です。AMHが低い人ほど早期に始める意義が大きく、年齢が高いほど数を確保する戦略が安心につながります。卵巣のリズムを理解し、無理のない計画で“未来の自分の選択肢”を残しましょう。