はじめに — 染色体検査の先にある「もう一歩の安心」
着床前検査(PGT-A)で染色体数を調べても、自閉症や小児がんなど染色体数では説明できない遺伝リスクが残ることがあります。この“見えない部分”をより広く調べたいというニーズから、スタンフォード大学の研究者たちが開発したOrchid PGT-WGS(Whole-Genome Screening)が注目を集めています。本稿では、その仕組みと臨床での使われ方、そして検討時の注意点をBetterFreezeの視点から整理しました。
1. Orchid PGT-WGSとは
Orchid PGT-WGSは、胚の99%以上のゲノム情報を解析する次世代型PGTです。これにより、従来は個別検査だった複数の項目を一度に評価できます。対象となるのは、染色体数(PGT-A)、単一遺伝子疾患(PGT-M)、de novo変異、多因子疾患リスク(GRS)など。解析範囲は200以上の自閉症・知的障害関連遺伝子、900以上の先天性異常遺伝子、90以上のがん関連遺伝子をカバーします。
2. 従来検査との主な違い
PGT-WGSは単一の検査で染色体・単一遺伝子・de novo変異・多因子疾患リスクを包括的に評価できる点が最大の特徴です。PGT-AやPGT-Mと比較した主な違いを以下の表にまとめました。
| 項目 | PGT-A | PGT-M | PGT-WGS |
|---|---|---|---|
| 主目的 | 染色体数異常の検出 | 家族歴疾患の確認 | 染色体・単一遺伝子・de novo・GRSを包括解析 |
| ゲノム解析範囲 | 約1% | 約1% | >99%(全ゲノム) |
| 得られる情報 | 限定的 | 特定疾患のみ | 自閉症・先天性異常・慢性疾患リスクを包括的に評価 |
3. 検査の流れ(目安:約2週間)
Orchid PGT-WGSは標準的なPGTと同様のタイムラインで進行します。代表的なステップを確認しておきましょう。
- 採卵・胚培養(Day 5〜7)
- 胚生検 → 凍結保存
- 全ゲノム解析
- 遺伝カウンセリング(結果説明)
- 正常/低リスク胚を選択・移植
4. 検討する価値があるケース
PGT-WGSはすべての患者に必要な検査ではありませんが、以下のようなニーズを持つ場合は選択肢に入ります。
- 染色体が正常でも重篤疾患のリスクが心配な場合
- 家族歴がなくてもde novo変異を確認したい場合
- 一度のサイクルで多項目をまとめて解析したい場合(海外在住など)
- 将来の慢性疾患リスクも含め健康設計を考えたい場合
5. 注意点と限界
PGT-WGSは確率を下げる検査であり、リスクを完全にゼロにはできません。環境要因や未知の変異は残ります。費用はPGT-AやPGT-Mを個別に行うより高額(北米で約6,000〜8,000 USD/サイクル)。GRSは統計的な指標であり、生活習慣などで変動します。結果の解釈には遺伝カウンセラーの支援が推奨されます。
- リスクゼロにはならない
- 長期健康リスクは確率的評価
- 専門家の解釈が重要
6. まとめ — 理解が安心を生む
Orchid PGT-WGSは、従来のPGTでは見えづらかった遺伝リスクを包括的に評価できる新しい選択肢です。ただし、すべてのリスクを取り除くものではありません。「どこまでを知り、どう活かすか」を自分たちの価値観と照らし合わせながら、主治医や遺伝カウンセラーと相談して決めていくことが大切です。